りそう設計

きやすい社会

Interview

生の痕跡
〜建築空間でのパパゲーノ効果による心理的療法〜

2021年卒業制作展 最優秀賞・理事長賞・審査員特別賞

2021年度 建築学科卒業

青木 遥さん

Section 1

Outline

“卒業研究の内容について
教えてください”

駅のアナウンスで人身事故(自殺)の発生を知った時、亡くなった人に想いを馳せるより先に交通機能が乱れることに怒りを感じる人が多い印象があります。私は以前からそんな社会の冷たさに違和感を抱いてきました。一方で私自身も当事者の想いを理解し、寄り添うことができているかというとそうではありません。それでも、一人ひとりが他者の死と向き合い、寄り添うことでより生きやすい社会になるのではないかと思い、鉄道自殺に焦点をあてて卒業研究に取り組むことにしました。

まず、駅内のひとつのホームに自ら死を選んだ方の生の痕跡を追悼の意味を込めてテキスタイルで表現し、もう一つのホームには全ての空間を体験し、生きる希望を持てた時に自らテキスタイルを配置できる人々の未来への希望をテキスタイルで表現した空間を設計。駅・線路の下・空き地を利用し、建築的要素と心理的要素の両面からストーリー立てて体験できる空間を提案しました。

Section 2

Focus

“苦労した点や
こだわった点は?”

当事者の想いは簡単に理解できるものではなく、何をどう設計したら良いのか悩みました。そんな時に見つけたのが「パパゲーノ効果」でした。「パパゲーノ効果」とは自殺を思い留まり成功した事例をマスメディアが取り上げることで自殺を抑制する心理的手法です。当初は建築的な仕掛けで自殺を抑止する方法を模索していましたが、「パパゲーノ効果」を知ったことで、心理的な面で当事者に寄り添う設計へと考え方を変えました。

例えば、生きる選択をした人がメッセージを残せる空間や訪れた人々がコミュニケーションをとれる空間など、互いにつながり、生きる希望を見出せるように願いを込めて設計に取り組みました。また、テキスタイルをふんだんに使用したのもこだわりのひとつです。風通しの良いオーガンジー素材で緩やかに空間を仕切ることで人とのつながりを感じられるよう工夫しました。模型にも厳選したオーガンジーを手作業でひとつずつ縫いつけています。

Section 3

Objective

“卒業研究を通して
学んだことと
今後の目標を教えてください”

入学した頃は建物を設計するのが建築のすべてだと思っていましたが、4年間かけて建築には社会を変える力があると知ることができました。建築がここまで現代社会と密接に関わっているとは思いもしませんでした。卒業研究でも自分自身が感じる社会の課題や違和感に向き合い、建築で解決策を表現することができたのではないかと思います。

デリケートなテーマで賛否両論あることを予想していましたが、先生や友人から「考えるきっかけになった」、「現代社会の問題と向き合っている」という言葉を聞くことができ、自信につながりました。今後は一級建築士資格の取得を目指して大学院へ進学します。修士課程でも引き続き社会問題の解決に向けた設計を追究していきたいです。また、テキスタイルや服飾に関する学びも深め、建築に活かしていけたらと考えています。

※こちらのインタビューは2022年3月時点の内容です。

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