KYOBI BLOG

建築学部

第7回 卒業制作優秀作品審査会

こんにちは。建築学科、准教授の宮内智久です。

今回のブログは建築学科4回生、卒業制作優秀作品審査会の様子をご紹介いたします。


卒業制作は、建築を学んだ4年間の集大成です。大学に入学後、学生たちはまず、図面の書き方や模型の作り方など初歩中の初歩から学びます。その後、設計演習の授業を通してスキルを習得していき、卒業する頃には建物の全体像を表現できるようになります。そして卒業制作では、与えられた課題をこなすのではなく、学生自らが考えるテーマをもとに設計製作を行い、もしくは研究論文としてまとめ発表します。その長いようであっという間に過ぎる4年の道のりを経て、学生にとっても、そして指導教員にとっても感慨のこもった作品になります。

 

発表の準備をする様子


本学年150人ほどの学生の卒業作品の中でも、優秀な作品を選出したこの審査会は、まさにオリンピックの万感迫る瞬間のようです。写真ではハッキリ伝わらないかもしれませんが、発表では図面や模型、時には映像などを用いることで、その建築があたかもそこに建っているかのごとく、話と想像の中で体験共有、かつ評価をします。学生は限られた時間の中で作品を発表し、外部審査員も含めた大学の先生方との質疑応答があります。もちろん皆さんいろいろな考えを思い巡らせながら聞いています。ですのでこの審査会は、文化的な祭り事であるようにも感じられます。時には厳しい意見も飛び交うこともありますが、それはあくまで同じ志をもつ愛のある意見です。とても頭と神経を使いますが、卒業の頃には学生皆さんの神経もだいぶ図太くなります。KYOBIの先生方は、おそらく他の大学と比べても、様々な経歴と見識をもち、とてもフェアで紳士的で意見も建設的だと感じます。

 

新東棟校舎の会場の様子

 

発表は、限られた時間内での勝負

 

卒業前の最後のレッスンでもある


学生と先生との関係は大切です。卒業制作は、最終学年である4年次の1年間をかけ、独自の課題を深堀していくプロセスです。テーマは学生により様々ですが、ゼミという形式で先生の下で学び、これからの京都・日本・世界、そして建築や建築家はどうあるべきかといった大きな視点をもちながら、学生と教授の間で対話を続けることによって構築していきます。よって建築を学ぶことの、他の分野とは異なる大きな特徴は、先生からその哲学と技術を知ることでもあります。伝統工芸や棟梁の世界でも、時代と世代を超え、その知恵と感覚を伝授されていくことが大切であることは、皆さんもご存じの通りです。

 

京都工芸繊維大学教授の松隈洋先生にゲスト審査員としてオンラインでご参加頂きました

司会はKYOBIの岡北一孝先生

 

大阪市立大学名誉教授の谷直樹先生にゲスト審査員としてご参加頂きました


一つの建物を建てるには、何年もかかります。一度建物が建つと何十年、何百年と使われていくことになります。ですので、そういった時を超えた考え方や価値観を伝えていくことも、建築を学ぶことの醍醐味でもあり責務でもあると、私は考えます。そういった意味でも、卒業後の同志が建築を通し、これからの時代をどうやって切り開いていくかを展望するのが、審査会の目的でもあります。はたして、学生が考える建築が、これからの世界をどう形づけ、世のために資することができるのか。そして古きに学びながらも、新しい価値を創造できるのか、そういった可能性にロマンチックな思いを馳せながら審査をしています。

 

最優秀賞(論文)を受賞された葛西佑香さん

タイトル:

「非六枝掛組物の設計技法の研究ー古代から中世末までの組物の変遷過程ー」

 

最優秀賞(設計)を受賞された青木遥さん

タイトル:

「生の痕跡 ー建築空間でのパパゲーノ効果による心理的療法ー」

 

優秀賞(設計)を受賞された藤井芹奈さん

タイトル:

「茶わんの森ー京都市における LCCM 住宅の活用と周辺環境ー」


学生の作品やテーマ設定も十人十色です。ここで全てを紹介することはできませんので、ぜひ京都美術工芸大学卒業制作・修士研究優秀作品展(本学の鴨川七条ギャラリーにて2022年3月1日より5月29日まで開催予定)に足を運んでいただき、ご覧になっていただければと思います。ですがひと言だけここでお伝えさせてください。大学の4年間では主に、建築の設計手法を学んでいるわけですが、学生による卒業制作のテーマ設定が、時には社会問題、環境問題、資源の問題、医療や生と死、京都らしい建物の保存や文化の継承など、いわば非常に利他的であることです。こういった利他的な価値観を養うことについては、大学のカリキュラムにはっきりと書かれているわけではありませんし、そのためになにか用意された教科書があるわけでもありません。では一体どこで学んでいるのでしょうか?豊かな建築を手掛けるには、単に技術的なノウハウを習得するだけでなく、世の中の見識を深め様々な経験を通して人として学んでいくことが大切なのかもしれません。そのような意味でも、大学の4年間を通し、ひとりの大人として成長した学生の姿には大変敬服致します。先の見通しずらい昨今だからこそ、新しい可能性を秘めた若手が育っていくのかもしれません。そんな希望の湧く審査会でした。


学生の方々、先生方、様々なサポートをくださった方々、大変お疲れさまでした。

(准教授 宮内智久)

KYOBI授業探訪 美術工芸学科 造形基礎演習Ⅰ
一覧へ戻る
2年生 建築デザイン演習Ⅰ(伝統建築領域)