建築学科2年生の前期授業「建築設計基礎演習Ⅱ」の紹介です。今回は特に、本授業で扱う二つの課題のうちの一つ目「岡崎・文化地区に建つ小規模商業施設 ブックカフェ」を紹介します。
■1年生での経験を踏まえ、本格的な建築設計の課題がスタート!
入学から1年経ち、2年生からは本格的に建築設計のトレーニングを行います。
1年生前期に図面の描き方や模型のつくり方等を、また後期にはそれらをもとに、少しづつ自身で建物を考え図面・模型等を用いて表現する練習を行いました。
本授業ではより実際の設計に近い(といっても2年生が考えられる範囲での)具体的な敷地や建物の使い方等の条件を読み解き、各自の考える建築の提案と、それを適切に図化・表現する練習を行います。
■課題の特徴
各課題では段階に応じた目標が設定されています。本課題の場合は例えば以下のようになります。
・施設の利用者(来訪者・従業員双方)にとって適切な動線(=人の動き)計画が立てられること
・床・壁・天井・階段等の、建築物をつくるために必要な要素の理解を深めること
・敷地や設計条件を読み取り関連事項を自身で調べ、その場所に建つオリジナルで魅力的な空間を
デザインすること
課題条件では、建物全体や各部屋の大きさ等が細かく設定されています。その中でも大きなポイントは以下の2点です。
・敷地:京都市の岡崎公園内の一角(周辺に平安神宮やロームシアター京都などがある)
建物に対して少し広めの敷地設定=建物以外の部分の敷地の使い方を考える必要がある
・カフェ・ブックショップ・ショップの三つの主な用途を複合的に考える必要がある
また屋外空間(オープンテラスや外構)との関係も考える必要がある
■重要なのは「やってみる」こと
上記の課題の目標・条件に、1年間学んだからサクッと応えられる、なんてことはありません。
もちろん順を追って、各授業回で指定されるものを提出していけば自然と最後まで進められるようになっています。分からないことがあるのが当然で、冒頭で記したように「設計のトレーニング」として、「分からないなりにひとまずやってみる」ということを大事にしてほしいと思っています。
設計は思いつきのアイデアの競争ではなく、条件をよく読み徐々に整理することが大切だからです。
■作品紹介 ー 「オリジナル」とは?
提出された作品には、魅力的な、また努力の跡が見られる作品が数多くありました。ただ今回はその中から1点に絞って紹介したいと思います。
この投稿を読んでいる方も、いつかは、自分の考えた他とは違う「オリジナル」な建築をつくりたいと思っているのではないでしょうか。この課題の目標にもあげられている「オリジナルで魅力的」。
他の人と違うものをつくるのは難しいことですが、次の作品にはそのヒントがある気がしました。
・タイトル:「交わりのカタチ」

本作品の主旨・コンセプトは、次のようになります(提出物より抜粋)。
「歴史ある大きな区画、岡崎の公園の一角に設計する。(中略)地域の子供、大人、観光客、訪れる多くの人が交流し、新たなつながりを生み出す。敷地全体が人々を優しく迎え入れ、滞在、回遊を考え、多くの人が自分にとって落ち着く景色、空間を見つけることができるよう設計を行った。」
このあとのいくつかのプレゼンボードをご覧頂くとより分かると思うのですが、太字にした箇所、特に「敷地全体が人々を優しく迎え入れ」というのが、私としては本作品(そして制作者)のオリジナルな部分なのだろうと思いました。


敷地全体を使いさまざまな方向から人が建物・敷地に出入りできる配置・動線計画、中庭やテラスなどの屋外の場所と室内空間の混ざり合い、屋内・外ともにいろいろな場所がある中でそれぞれが適切な大きさに計画されていること、そして公園に最も接する部分は他と異なり公園側を向くように建物の角度を少し変えていること、などなど。
あげだしたらきりがないのですが、そのような計画の特徴が、全体的な手描きの線・淡い色調の表現と、図面やイメージパースに描かれた活き活きとした「人」「家具」「モノ(本や商品)」「植栽」により、さらに引き立って見えてきます。


これらを見て、私は次のように感じました。
タイトルの「交わりのカタチ」とは、建物の室内・通路が直角に交わっていることを表しているのではなく、人と人、人とモノ、人と植物、モノと植物、建物の中と外(光や風なども)、敷地の中と外、自身の(現代の)設計物と周囲の過去の建築群、今・これからを生きる人と過去を生きた人(歴史)、などなど、そして今回の課題で重要な「本」や「商品」を手に取る瞬間も含めて、「さまざまな〈交わる〉という行為・瞬間を〈優しく受け入れる〉カタチ、でありたい」ということなのではないか。
おそらく本作品をつくった学生さんが普段からものごとをそのように捉えていて、それがうまく建築に表現されているからこそ「オリジナル」かつ「魅力的」な作品と言えるのかな、と思いました。


まどろっこしい言い方になってしまいましたが、いかがでしょうか。(分かりづらい?)
なるべく多くの方に、オリジナルな作品ができたかも!と思える瞬間があると(その気づきを我々教員が手助けできると)良いなと思っています。
とはいえ、そのオリジナルな要素を常に、意識的に建築に反映させるには知識と訓練が必要です。
そのため他の芸術分野と同様に、多くの参考事例・過去の良い手本を模写する・コピーできることがオリジナルな作品への近道であると言えましょう。
他にも魅力的な作品はありましたが、「オリジナルとは?」という視点から(少し私見も入っていますが)今回ご紹介させて頂きました。
他の作品も見たいぞーという方は、オープンキャンパスの際に学内に展示していますので、ぜひご覧ください。他の作品も面白いですよ。
長くなりましたが、以上です。 (准教授 人見将敏)