KYOBI BLOG

芸術学部

身の回りにある素材 漆工研究室

ウズラの卵

基礎的な学びの場では、自ら使う道具の作成から始まります。

今回は実習授業の中での話ではなく、課題をしっかり取り組んで作業時間にゆとりができた学生に体験してもらった話。

道具や材料がどの様にして作られているかを知ることは、ものづくりが上達するためには欠かせない知識。

その一部は以前にも紹介以前の記事

今回は表現に使う素材についての考えを紹介。

漆工芸で「白」の表現をするとき身の回りの物で使えるものの代表は「卵」の殻でしょう。

もちろん塗料として使える「白漆」という物も作れます。

「ウルシ」に白い顔料の一種である「酸化チタニウム」を一定量合わせます。基本的には油絵具と同じように理解してくだされば良いです。ただ「ウルシ」は硬化したあとは日常生活での耐水、耐酸、耐アルカリ性を持ち研磨して磨き上げることも可能です。

ただ、白いウルシは硬化するとどうしてもウルシ本来の色である茶褐色の透明が影響して純白の白は出にくいです。

そこで昔から活用されている白の素材が「卵の殻」なのです。

ウルシ工芸の素材によく使われている卵は「うずら」の卵です。

「うずら」卵は外側に、それぞれに特徴のある柄があります。

まずはその柄を除去して卵の色を見分けるところからはじめます。

ガラの除去の方法も様々

今回はお酢を使いました。

模様を除去した卵は一個毎に白さが違います。少し蒼白いもの、少し黄色いもの、オフホワイトのもの、白の中にも様々な種類があるのです。長時間紫外線などにあたるとそれはそれで白くなっていくのですが、元々が白いに越したことはありません。

まずはそれを見分けるのです。

本当に白く感じるのは百個のうち一個か二個でしょうか?

それを選んだら今度は卵の内側にある薄皮を除去します。

うずらのからの薄皮の取り方(一つの例)

①卵の尖っている部分をカット

②卵の下(丸い方)から丸い棒(鉛筆など)で殻を割る。

③そのまま棒を突き刺して①でカットした穴から内側の薄皮を除去。

この工程に挑戦

初めての薄皮の除去前編
初めての薄皮の除去後編

普段なら、一人で行う作業なので卵の中身は全てお料理の食材にします。私の場合は目玉焼きにしたときは、いっぱい並んでちょっと怖かったです。鶏卵とは違う味わい。

(ただし今回は研究室での体験実習なので、衛生面や、COVIDのことも考え、今回は廃棄にさせていただきました。ごめんなさい)

こうやって用意した卵の殻をウルシで器物などに貼っていくのです。

また貼る時のウルシの調合や、卵の破砕の方法などいろいろな基礎技術があるのですが、それは次回。

技術の習得には繰り返しのトレーニングと同時に、素材についての考察が必ず必要です。

繰り返しの反復をするときに無心で取り組むことが良いと言う考えもありますし、

そのほうが身につくスピードは早いと言えるでしょう。

だんだん上手くなっていく。

ただ、大学では頭も脳もフルに使って取り組むことが必要です。単に作業手順を覚えるのではなく、

なぜ?という疑問を常に持ち

自分はどう考えるか?

他の人はどのように考えるか?

どうしたら人に伝わるのか?

様々な事にアンテナを広げながら、石器時代から人の暮らしと共にあった自然の恵みの漆と向き合ってほしい。

道具とは「道に具える(ソナエル)」と書きます。「具える」とは、ある事態が起こったときにうろたえないように、また、これから先に起こる事態に対応できるように準備しておくのこと。との意味もあるようです。(weblio辞書より)

材料を整えることも道具作りに通じます。

卵の薄皮を外すという作業の中にも実は様々なことにつながる、大事な要素が含まれていると私は思うのです。

漆工研究室特任准教授 三木表悦

私の研究室では日本で独自の発展を遂げた漆工芸の基礎技術や基本技法、材料との特性を学びながら、研究や作品制作を通じて自身の考えを深め、日本の工芸の展開を「京都」の地から考えていきたいと考えています。

美術工芸学科「京都学演習」の授業紹介
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